ラーメン物語7

バイトだけの飲み会
出席者は
ムラノ、オオニシ、コウヅキ、俺の男4人と
ハルカ、ヒトミ、フクモリの女3人


ハルカとヒトミは17歳のヤンキー
ムラノは同い年の大学生
オオニシはコウヅキと同い年である


他にも何人かいるが
大体はこんなメンツで月に1回2回は集まっていたりする
ちなみに社員は呼ばない
一度イモト氏が来たいと言うので
呼んでみたら
話は面白くないし
妙に偉そうで気分が悪かったので
呼ばない事にした


いつもの居酒屋なので
頼むメニューもほぼ一緒だ
各々がドリンクを頼む
俺とコウヅキは酒を飲まない
ハルカとヒトミは未成年ではあるが
ヤンキーなので良しとする


暫くして
全員にドリンクが行き渡り
乾杯をする


「なあ○藤、正社員の話断ったん?」
ムラノが言う
あんまり人に言ってないはずなのに
どこで行き渡ったのか
「うん、というより断り続けてる」
そう
店長からはしつこい位社員にならないかと言われている
「えー、なったらええのにー」
フクモリが言う
「飲食店の社員なんて、奴隷やん!絶対ならん」
勤務時間も長く
肉体的にもきつく
休みも少ない
店の社員の姿を見てたらなりたいとは
決して思わない
「そんなよりムラノは就活ちゃうん?」
話題を無理矢理変えてやった
「そうやねん!ヤバイ位面接落ちてるんよ」
当時は結構な就職氷河期
ムラノに限らず
みんな就活は苦戦していた模様だ


ハルカとヒトミに限っては
早く結婚したい
子供が欲しい
男なんか信じない

タバコをバカバカ吸い
ビールを飲みながら
支離滅裂な話を延々とする
流石はヤンキー


オオニシは酒を飲むが
それほど強くなく
酔ってきたらだいたい
ネガティブな事を言い出し
周りが慰めるという図式が完成する
後は店の愚痴
社員の悪口を言いたい放題言う
毎回こんな感じだ


三時間ほど飲み
途中からバイト終わりの
アラキという女と
ナカモトという男も合流
共に大学生


「もう終わりやで、カラオケ行く?」

俺が提案する
コレもいつもの流れ
ハルカとヒトミとムラノは
明日もランチからのシフトなので帰る
オオニシは酔いすぎて
どうにもならんので帰る
「オオニシは俺が送って帰るから、後はみんなでカラオケ行っておいでよ」
俺も朝からの仕込みがあるので帰ると告げる


「○藤さん行かへんの?」
アラキが言う
「オオニシボロボロやし、後は任せるわ。コウヅキ!フクモリとかちゃんと送っていくんやで」
しっかりコウヅキにアシストする


「はい!分かりました!」


ヨシヨシ


「ナカモトとアラキは大丈夫やな?」


「オッケーです!」
ナカモトが言う


アラキとナカモトは
実は付き合っている
少数の人間しか知らない
コウヅキの想いも伝えているので
後はうまくやってくれるであろう


「じゃあ、お疲れー!」


そう言い
俺は飲み会を後にした


コウヅキ次第やな…
頑張れよ!


そう思いながら
車を走らせた


「気分が悪くて…吐きそうです…」


うん
オオニシよ


吐いたら殺すよ?

ラーメン物語6

ラーメン屋のバイトも数カ月が過ぎ
色んな仕事を覚え
フリーターと言う事もあり
ランチタイムを仕切らせて貰えるようになった
時間も8時〜17時になり
仕込みから仕事をするようになった


正社員の人達はもちろん
バイト仲間達とも仲良くなり
よくバイト終わりに遊びに行ったりしていた


よく遊びに行っていたのが
コウツギと言う18歳の大学生の男
何かと懐いてきて
俺は弟の様に可愛がっていた


ある定休日
店に出て次の日の営業の分を
一人で仕込みしていた
ラーメン屋は月曜日が定休日なのだが
定休日も基本的に誰かしら出勤し
仕込みなどをしている
今回は俺の当番


仕込みをしていたら携帯がなった
コウヅキからだ
また遊びの誘いだろう
とりあえず電話に出る



もしもし


コウヅキ
チワッス!
○藤さん今何してます?



今日は仕込み当番やから
店に出てんねん
どうした?


コウヅキ
ホンマっすか?
じゃあ今から店に行きますねー



おー
分かった


こんな感じで
店に遊びに来るヤツは結構いたので
定休日の仕込みも苦ではなかった


暫くするとコウヅキが店に来た



あれ?
今日は一人?


いつもは誰かしらと来るのに
今日は一人の様だ


コウヅキ
そうなんすよ
実は○藤さんに相談があって…



相談?
とりあえず仕込み終わらせたら聞くわ
ちょっと待ってて


相談事は初めてではないが
今回は少し感じが違う
俺は仕込みを一段落終え
厨房からホールのテーブル席に座った



待たせたな
ほんで相談って?
金は無いで


軽く冗談を言い
タバコに火をつけ
コウヅキが話し出す


コウヅキ
知ってますよー(笑)
実は…
僕好きな子が出来たんです


またか…
何回かこういった恋愛相談は受けている
いつも通りだ
それでも一応話は聞く



おう
今度はどこの女よ?


コウヅキ
おんなじバイトのフクモリさんです!


え?!!


コレには俺も驚いた


この女はフクモリエミ
確か俺の二つ下の女の子だ
ランチタイムに入っているバイト
バイト仲間で遊びに行く内の一人で
特に可愛いわけでは無いが
小柄てま愛想がとても良く
良く笑い
お客さんからも人気があった
しかも
ナイスな形と張りのある巨乳女だ
aikoみたいな女と言えばわかりやすいだろうか?


コウヅキとはシフトが被ってるわけでは無いが
飯をみんなで食いに行った時とかに
一緒になっている
しかし
それほど絡んでいた印象はない



お前いつの間に好きになってんねん!
ホンマにびっくりしたわ!
あんまり絡んでないやろ?


コウヅキ
この前みんなで飲みに行ったじゃないですか?
あの時ちょっとだけ喋ったんですよ
それから好きになってしまったんです!


何だこいつは?
惚れやすいのか?
俺は少し呆れてしまった
コイツは女に騙されるタイプやなと
少し思い
将来が不安になってしまった


確かにフクモリは愛想も良いし
巨乳で美乳かもしれないが
そんな音速で惚れてしまう何かがあるとは
思えなかった



ほんで
コウヅキはどうしたいんよ?


コウヅキ
また集まる時呼んで貰ってええすか?
フクモリさんも一緒に
お願いします!!


結構マジみたいやし
仲を取り持てと言われたら
断ろうと思ったが
機会を与えるだけならエエかと思い
コウヅキに言った



エエよ
分かった
フクモリのシフト入ってる時に言うとくわ


そう言い
店にあるシフト表を確認する



明日フクモリ入ってるわ
フクモリだけやなくて他のみんなも来ると思うし
日程決まったらまた言うわ


コウヅキ
ホンマですか!?
ありがとうございます!!


コウヅキは凄く喜んでいた


俺も仕込み手伝いますよ!!


そう言いながら
嬉しそうに仕込みを手伝ってくれた


そして俺は
翌日の営業日にランチタイムに入っている
バイト達に声を掛け
遊びに行くことになった


もちろんフクモリにも声を掛ける



フクモリ?
今度みんなで夜に遊びに行かん
言うてもいつも行ってる所やけど?


バイト仲間で行く所は
決まった居酒屋がある


フクモリ
行く行くぅ!
○藤さんも行くんやろ?


もちろんと答える


フクモリ
その日空けときますねー


その事をコウヅキに伝える



○日の夜に集まるけど?
イケるか?


コウヅキ
もちろんです!
行きますよー!
シフト出しときますわー!!


電話越しにも
喜び張り切っているのが伝わってきた


やれやれ
世話の焼ける弟分やと思いながら
頑張れよとも応援したくなる


そして
みんなで集まる日を迎えた

ラーメン物語5

バックヤードで店長から
改まって言われた


正社員にならん?


唐突に言われた
ホンマに予想外であった
まだ入って1ヶ月程で
仕事もやっとこさ慣れてきたところでの
まさかの正社員にならんか?だ


俺は店長に


申し訳ありませんが
正社員にはなりません



キッパリと断った


店長も
そうやろな
みたいな顔をして
「何かやりたい事とか、なりたい仕事でもあるん?」
と聞いてきた


俺は
いえ…特には…

答えた


正直グッサリきた


確かに
当時の俺には
明確な夢や目標は無かった
やりたい仕事も無く
何となく食いつなぐ為に
ラーメン屋のバイトをしていた


店長は
こういう飲食店の仕事は
みんな自分の店を持ちたいって思いながら
働いてるの
そこは一般企業と違う所やねん
もちろん僕もそういう野心を持って仕事してるで


店長は当時29歳
真摯に仕事と向き合ってやっているのは
俺でも分かる
もちろん俺もバイトとは言え 
仕事は真剣に取り組んでいる


店長は
「まあ考えといてよ」
と言って店に戻っていった


やりたい事かぁ…


自分の今の生活は
ラーメン屋のバイトを
10時〜17時までの週5〜6日
家に帰れば
疲れ果てどこにも行かずに寝る
休みの日もほぼ寝てる
週末はたまに友達と夜に遊びに行く位
当然お互い稼ぎが少なく
遊びなんて
カラオケ行くかファミレスでしゃべり倒すか


ラーメン屋のバイトは充実していた
しかし
このままでいいのか
店長からの言葉


何かやりたい事あるん?


この言葉が
何故だか重く伸し掛かった

ラーメン物語4

はぁ…


溜め息しか出ない


勤務初日で
あれだけの仕打ちを受けたら
チタンのメンタルを持つ俺でも 
流石に凹むな


しかしだ


バイトだろうと社員であろうと
2日やそこらで辞めるようでは


漢が廃る!


どうせ辞めるなら
何かしらを吸収してから辞めなければ!


気合を入れて出勤する


するとだ…


おや?
おやおや?


初日に比べると
明らかに優しい


相変わらず卵は剥いているが
他にも色んな事を教えてくれる


餃子の焼き方
サイドメニューの作り方
何なら
アイドルタイム(要は暇な時間)に
まかない限定ではあるが
チャーハンや
何ならラーメンの作り方も教えてくれる


厨房であるから
暑いし
肉体的にもキツかったが
色んな仕事を教えてもらい
非常に充実していた
単純に楽しかった


仕事が楽しくなれば
声も出るようになるし
周りの雰囲気も良く
店長を始め
他の社員も優しく接してくれた


イモト氏以外はね


そうした充実した日々を送り
バイトを始めて1ヶ月が経ち
最初の給料日を迎えた


バイトを終え
タイムカードを押し
バックルームに向かうと店長がいた


「おっ!お疲れ様ー!はいこれ明細ね」


ありがとうございます!と言い
明細を受け取る


「キツイのによく頑張ったなぁ!みんな辞めていくなか助かったよ!」
店長から労いの言葉を掛けられる
俺は少し照れながらも
ありがとうございますと言う


「でね、○藤さん」
改まって店長が言う


はい
何でしょう?


「折り入って相談があるんやけど…」


店長から
予想外の言葉を掛けられる 

 

ラーメン物語3

簡単な朝礼と自己紹介を終え
店長から声が掛かる
「とりあえずねぇ、人に付いて仕事覚えて貰おうか」
そう言われて
店長は大きい声で呼ぶ
「イモトさーん!」


ハイ!と返事しこちらに来る
「厨房担当のイモトさんね。この人から色々と教わって」
イモトさん
俺より一つ上の厨房担当
猫背で色白で根暗な物静かな感じである
正直苦手なタイプだ
イモトさんは静かに言う
「えーと…何をしてもらおうかな」


最初は洗い場とかなんやろなぁーとか
漠然と考えていた


イモトさんは
「じゃあ、半熟卵を作って殻を剥いて下さい」
半熟卵
ゆで卵はあっても半熟卵なんぞ作った事なんて無いぞ
半熟卵の作り方を教わる


鍋に入れられるだけの卵を入れる
水は卵が完全に浸る位入れる
強火で火にかけてから9分30秒で取り出す
一度水に入れそのまま水の中で殻を剥く
剝いた卵は水気を良く取る
煮卵のタレに2時間漬け込む


この一連の流れをこなすらしい
イモト氏曰く
多い時で300個位出るとの事


どれだけ玉子好きやねん
思わずツッコミそうになるが
ぐっと押さえる


でわ、よろしく


イモト氏は自分の持ち場へ戻っていく
さて仕事に取り掛かろうか


まずは卵を鍋に入れて水を入れて火に掛ける
タイマーを掛ける
その間に茹で上がった卵を剥く
これが案外難しい
何せお客さんの口に入る商品である
少しでも傷が付いたり
変な剥き方をしてはいけない
とにかく丁寧に剥いていた
タイマーがが鳴る
もう時間か
火にかけた卵を水に入れる
次の卵を火に掛ける
暫くすると
剥かなければならない卵が溜まっていた
ヤバイぞ
少しでも早くしなければ


ここでイモト氏が様子を見に来た


「どう?進んでる?」


俺の作業を覗き見る
イモト氏は
「おっそ!」


まさかの言葉である
確かに遅いかもしれないが
勤務初日の人間に掛ける言葉か?


すいません


俺はこう答えるしか無かった
さらにイモト氏は剝いた卵を見て
「何これ?こんなん売り物にならんやん」
そう言い
剝いた卵を一つ二つと捨て始めた
何をしてるんだ?!
人が一生懸命剝いた卵を!
「使えるのこれだけやで?もっと丁寧に早く剥いてな」
ボソッと言い
持ち場に戻る
俺は悔しくて泣きそうになった


なぜここまで言われないといけないのか?


確かにバイトとは言え
金を稼ぎに来てる身
立派な商品を作り上げなければならない
腹が立つ言われ方でも
正論を言われてる分 
悔しくてしょうがなかった


その後は
特に何か言われる事も無く
ただ黙々と半熟卵を作り上げていった


何とか初日は終了
同じ作業の繰り返しと
悔しさで疲労困憊であった


これ続くかな?


色んな不安が過る中


一日目が終わるのであった

ラーメン物語2

バイト初日
勤務時間は10時から17時まで
時給は850円
今なら相当安いバイトであろう
当時もまあまあ安かったのだが
それでも仕事は仕事


オープニングスタッフとは言え
オープンから暫く経っている
すでに働いている人達と
すぐ馴染める様に
俺は遅れずに9:30に余裕持って出勤する
店の入り口から入り先ずは店長に挨拶


「おはようございます
今日から宜しくお願いします」


店の開店準備をしていた店長は手を止め
「おはようございます!
じゃあバックヤードに来てくれる?」


そう言われて
店の裏側に向かう


バックヤードへは厨房を通り抜けて行く
ラーメン屋の厨房は初めてだ
床が油でヌルヌルしている
しかも
何か獣臭い
豚骨の匂いだろうか?
そんな事を思いながら厨房を抜けて
バックヤードに案内される


すでに二人のバイトが出勤していた
ヤンキー女が二人
ギャルではない
どう見てもヤンキーだ


店長から紹介される
「今日から入る○藤君ね」


二人のヤンキー女は
「おはようございますーよろしくお願いしまーす」
タバコを吸いながら言ってきた
ちなみにこの二人のヤンキーは
ハルカとヒトミ
17歳
うむ
流石はラーメン屋
当時は何故かラーメン屋にはヤンキーが勤務している傾向があった
何故かはわからないが
そういう傾向にあった


「ここで着替えたりしてね。これからはこっちの裏口から入ってきてな」


分かりましたと
制服を渡される
では制服に着替えようか


ラーメン屋のバックヤードなんて
マジで狭いんだ
ヤンキー女の前で着替えるのか


色々と躊躇したが
ここで着替えるんならしょうがない
俺の気持ちを察してか


「着替えて貰ってエエっすよ。気にしないんで」


ハルカというヤンキー女は言う


ああ
そうですか


ではヤンキー女の前で着替えようか
俺は勢い良く服を脱ぎ
ヤンキー共にパンツをガッツリ見せ
制服に着替えた


こいつら二人は全く気にする素振りも見せず
タバコを吸い続ける


これからは制服に着替えて出勤しようと


制服に着換え
タイムカードを押し
しっかり手を洗う


ヤンキー女達はホールへ向かい
テキパキと準備をする
流石はヤンキー気合が違うな


では俺も行くとするか


さあ
ラーメン屋の初仕事だ

ラーメン物語

高校を卒業して
俺は就職につく


某激安靴屋さん


部活を引退して
バイトで入った所を
そのまま正社員で就職したのだ


この時の話を書いてよいのだが
敢えて
その後のラーメン屋での事を綴っていこう


激安靴屋を辞めた22歳
さてこの後は何をしようか?
そう思って家の新聞の求人のチラシを観る


ラーメン屋の求人である


オープニングスタッフ募集が目に止まる
勤務形態はアルバイト
別に焦って就職するのもどうかと思ってたし
とりあえずバイトでもエエかと
軽い気持ちで応募しようと思った
早速電話してみよう


もしもし?アルバイトの求人見て御電話させて頂いたんですが?まだ募集してますか?


してますよー
今日面接来れますか?


え?
即日面接が決まる
早いな
早すぎる
その日は特に予定も無かったので
行けますと伝える


その日の夕方前に面接へ


先程御電話させて頂いた
面接希望の○藤です


あー
待ってましたよ
どうぞどうぞ


出てきたのは
店長らしき人
ガタイが良くプロレスラーみたいで
何故か妙な迫力があった
この迫力には理由がキチンとあったんだが
それはまた後ほど


店長
えー
○藤さん
22歳ですか
いつから働けます?


は?
まさに
は?である


ろくに話もしてないのに
いきなり採用?
まあこっちとしてはありがたい話ではあるが
俺はいつでも行けますよと伝える


では
明日からで!
お待ちしてますね


バイトとはいえ
呆気なく勤め先が決まる
ラーメン屋は初めてだが
所詮バイトなので何とでもなるだろう
そう思っていた


これから始まる
壮絶な日々を知らずに