ラーメン物語12

裏口の前にいる男は
新入社員であろう


タナカである


しかもだ
出勤初日で
裏口とはいえ
店の前で
ウンコ座りで
タバコを吸い
靴はかかとを踏んでいる
しかも髪型はオールバック


どう見ても
ヤンキーだ
間違いない


漫画に出てきそうなヤンキー
平成のご時世に
こんなヤンキーがいるのかと
おそらく
学生時代の愛読書は
チャンプロードである
何なら今も愛読してるかもしれない
そもそもまだ売っているのか?


うわぁ…
ヤンキーが新入社員で俺の下に付くんかい
しかも同い年って
とにかく
裏口から入らないと仕事に行けないし
鍵も俺が持っている
実はコンビニと間違えて座ってましたとか
ハイセンスなボケを噛ます様な人間なら良いが


裏口に行き
彼と目が合う
彼は立ち上がり


「○藤さんですか?今日からお世話になります、タナカです」


低く野太い声で挨拶をする
流石はヤンキー


「おはようございます!ほんなら店に入りましょうか?」
爽やかに挨拶した


店に入り
いつもは一人で仕込みをしているので
誰かいるのは違和感を感じる


まず初めにやってもらうのは…


そう言いながら
仕事を教えていき
田中はハイハイと聞き
大事だと思う所はメモを取る
流石はヤンキーだ
気合の入り方が違う


これならすぐにモノになりそうやな


俺はそう思った
仕込みと開店準備も終わり
営業時間まで空いたので
二人でタバコを吸いに行く


「店長から聞きましたが、○藤さんはスーパーなバイトらしいッスね?」
タナカが言ってきてた


「そんな事ないで、ただ歴が長いってだけやで!誰でも出来るよ」


「そうッスか?デキル人ってかんじですけど?」
タナカは褒めてくる
流石はヤンキー
こういった上下関係には長けている
しかし
同い年もあるが
社員がバイトに敬語を使わせるのも
どうかと思い
「タナカ君、同い年やし敬語とかエエよ?しかも俺バイトやし。もっとフランクにいこうや」
タナカは持っていたコーヒーを飲み
「マジっすか?わかりました!これからはそうします」
タナカは笑いながらそういった
「オーケー!店開けよか!」
そう言って厨房に行き
ハルカに暖簾を出すように指示した


それから暫くして
俺とタナカでランチを営業し
タナカもだいぶ慣れてきて
もう一人で何とかなる位に間でなってきた


ある日
店長から話があった
「タナカ君もだいぶ慣れてきたし、一人でランチ任せてみようと思うんやけど?」
おっ
タナカも独り立ちか!
一緒にやってきた一人として少し嬉しかった


となると…?


「店長、じゃあ俺は?」
そうだ
タナカが一人で回すなら
俺がランチに入る必要は無くなる
どうするのか店長に聞いた


「○藤さんは深夜に一度入ってみようか?」
 
まさかの遅番に勤務か!
ウチの店の営業時間は
11時から深夜3時まで
閉店作業までしてたら
4時までの勤務になる


店長は続けて言う
「レギュラーで深夜にシフトインは無いけど、全ての時間の仕事内容を覚えて置いて欲しいんよ」
なるほど
「全ては今後の為やね!」
店長は笑いながら言う
どうしても社員にするつもりやな
絶対にならんけど
「じゃあ来週のどこかで一日入ろうか?」
店長はそう言い
俺はわかりましたと言った


何か良いように使われてる気がするが
深夜は時給500円アップやし
オイシイなと心踊らせていた


そして
深夜勤務の日が訪れた